第1章 ひとりぼっちの居場所
男はしゃがみ込むと、ためらいなく手を伸ばす。
「濡れているな」
ぽん、と。
頭に触れられる。
「っ――」
その瞬間ヒスイの身体がびくりと震えた。
あたたかい。懐かしい。
でも、それ以上に――
(……この人が、いい)
理由なんてなかった。
ただ、そう思った。
男はそれ以上何も言わず、静かに立ち上がる。
「……ここにいるなら、勝手にしろ」
突き放すような言葉。
けれど足は止まっていた。
ほんの一瞬だけ、振り返る。
「……風邪をひくな」
それだけ言って去っていく。
ヒスイは、その背中をずっと見ていた。
胸が、うるさい。
こんな感覚、知らない。
けれど――
「……すきな、あたたかさ、だ」
ぽつりと、こぼれた。
それはまだ名前も知らない相手への。
ひどく、幼くて。
どうしようもなく、取り返しのつかない――
恋のはじまりだった。