第6章 エデンを覗き見る
「蓮」
「……おかえり」
「ただいま」
あたしを視界に映した彼が、気づくか気づかないかな程度に口角を上げて、立ち上がった。
行くか。目の前で見下ろしてたあたしの横を通り過ぎて、そのまま出口に向かう。
なんの会話もない。
あたしの好きなあの笑顔もない。
歩調もばらばら。
前を行く蓮の背中を追うには早すぎる彼の歩みに、感じていた違和感が確信に変わった。
怒ってるんだ。
なにを?
そんなバカな疑念、抱えるまでもない。
ついさっきの一連のやりとりが、蓮をそうさせたんだ。
でも、好きだなって思ったそばからこれはちょっとキツいな。
ただでさえ未知の領域に踏み込んで、感情の整理も落とし所もまだ何もしていないし見つけてないこの状況で、これはどう対処すればいいの。
自分の見ている外側と、自分の感じている内側に落差がありすぎて、爆発しそうになる頭はきりきりと痛かった。
「蓮」
「なに」
駅を出て繁華街も通り過ぎて、街灯の少ない住宅地に差し掛かった所で声をかけた。ずっと前を歩く蓮が振り返った姿に、言葉が出てこなかった。
あたしを見下ろす彼のその瞳に色なんてなくて。
冷え切った、冷たい冷たい氷のようなそれ。
怖くて怯んでしまいそうになるも、蓮から視線だけは外したくなかった。
「ごめんね」
「なにが」
「さっきの、電話。……途中で切れたから」
「別に気にしてねぇよ」
「ウソだ」
「ウソじゃねぇし」
だったらなんでそんな怖い顔してるの。
なんでそんなイライラしてるように見えるの。