第6章 エデンを覗き見る
珍しくあそこまで酔い潰れた太刀川さんは、誰が何度咎めても、あたしを家まで送るって聞かなかった。酔ってねーよ。酔っ払いの常套句を炸裂させて、だけど足元はふらっふらで。
久しぶりにすこぶる面倒な絡みの標的になったのは、甲斐甲斐しくも介抱に追われた諏訪さんだった。
誰と間違えてんのか、離れたくないだのお前ん家に泊まるだの、散々駄々を捏ねて抱きつきまくった挙げ句、半ギレの諏訪さんが呼んだタクシーに無理やり詰め込まれて、2人仲良く帰っていったのは、つい数十分前のこと。
そこから猛ダッシュで駅まで走って、ギリギリで終電に飛び乗れたからいいものの、タクシーに乗り込んだ頃には早々にぐったりしていた諏訪さんを思うと、大変申し訳ないけど、狙いの的があたしじゃなくて本気で良かったと思った。
漸くほっと息をつけたのは、最寄り駅まであと数分のところ。忘年会シーズンで混雑するのは何も繁華街だけじゃない。終電だってのに、すし詰め状態の車内で奇跡的に座れたあたしは、鞄の中から端末を取り出した。
駅まで迎えに行くから終わったら連絡して。
あのあと謝罪のメッセージを送れば返ってきた文字を、ぼーっと見つめた。
なんか、違和感。
文章だけ見ればそんなことないかなって、単純なことを思考が練りまくって難解にする、あたしのいつもの癖なのかなって思うけど。
遅くなるからいいよ、大丈夫だからって送っても、既読は付けど、それから返事が来ることはなかった。
車掌のアナウンスと減速していく電車。
扉が開くと、雪崩れのように降りてく人の群れに紛れて改札に向かう。
一応この電車に乗るってことは伝えたけど、うんともすんとも言わなくなった端末からじゃ、蓮が駅にいるって可能性も計れない。
もしほんとに来てくれてるなら、そりゃ嬉しいに越したことはない。だけど引っかかりがある以上、素直に喜べない自分がいるのも正直なところだ。
改札を抜けて、立ち止まる。
人の波が途切れるのを待ってから、視線をそこかしこに向けたら、
見つけた。
壁に寄っかかるみたいにしてしゃがんでる蓮の姿。
彼を見た瞬間、途端に忙しなく脈を打つ心臓に、ああそうだ、ちゃんと自覚したんだって、そこでやっとドキドキする余裕ができた。