第6章 エデンを覗き見る
「え、花衣の手作り?だよな?」
「一応ね」
「忙しくてこんなん作る時間なかっただろ」
「だから今日4時起きだった」
オーブンから甘い匂いが部屋に充満する頃、気持ちと妄想だけでここまでやった自分に一瞬我に返った。手作りって重い?いきなりはマズイ?ちょっと引かれる?いや、だいぶ引かれる?これってかなり自己満?
渡すのやめようかなって思う程度には、不安な気持ちが頭の中をぐるぐる回ってた。
でも、蓮のにぃって笑う、あたしの好きなあの笑顔を見せてくれたから、そんなの全部吹っ飛んだ、帳消しだ帳消し。
やっぱりこの人の前では、あたしは単純になる。
それも仕草ひとつ、言葉ひとつで。
「花衣」
「ん?……うわっ!ちょ、れ、蓮!?」
「すげー嬉しい、ありがとな」
「だからって、これはむり!くるし、ってば!」
元々近かった距離を蓮の手がさらに詰めた。腕を引かれて胸の中に閉じ込められて。頭の後ろと背中に回った両手が、力任せにあたしの体を抱え込んだ。
抱擁と言うより羽交い締めに近いその行為に、息ができなくて苦しい。腰の辺りに手を回してギブアップとばかりにとんとん叩けばやっと離してくれる。
「あたしを殺す気か!」
「悪ィ。テンション上がってつい」
「つい、で息の根止められたら死んでも死にきれないよ」
「それぐらい嬉しかったってことだよ」
「ちょ、っと!ボサボサんなるからやめてよ」
抱きしめるだけじゃ足りなかったのか、今度は両手でどこぞの誰かさんのように頭を頻りに捏ねくり回す。
ただでさえ心臓の音がずっとうるさいのに、過度なスキンシップは毒でしかない。彼がこんなに触れてくるなんて予測もしてなかったから余計に。それにさっきから入ってくる蓮の気持ち。
可愛い可愛いと、まるで動物を愛でるようなトーンの声に、あたしの心はどこか複雑だった。