第6章 エデンを覗き見る
「もしもし蓮?」
「はは、出るの早えな」
「え?あ、うん、たまたま、たまたまだよ」
ウソだ。表示された名前を見て慌ててボタンを押したんだもの。
「どしたの?」
「もう帰ってきてんの?」
「うん、今帰ってきた」
「そっか、おつかれ。………あのさ、」
うわー。
蓮の声だ。
かかってきたんだから当たり前なんだけど、その当たり前のことにすら一喜一憂させられる。さっきまで落ちてたのに、彼と話してるだけで上がるあたしはこんなに単純だったっけ?
端末の向こう、蓮の声が一瞬途切れて、代わりに拾った小さな騒音。屋外特有の風の音とかたまに通る車の音とか。彼は今外にいるんだなってことが分かる。
「下までこれねぇ?」
「下って、家の?」
「そー、」
まさかのまさか?
もしかしてもしかするの?
蓮の言葉に勝手に動いた体は、今日の任務の疲れなんて何処へやらってぐらいに俊敏だった。勢いよくベッドに乗り上げて、窓にかかってるカーテンもその勢いのまま開ける。
窓に蛍光灯が反射して良く見えなくて、それでも目を凝らして蓮の姿を探してみるけど、人の気配すらなかった。
「下りられる、けど」
「じゃ下りてきて、顔見たい」
「今どこにいるの?」
「ちょうど店の角曲がって歩いてるとこ。あと2分ぐらいで花衣ん家着く」
「わかった。じゃあ下りるね」
端末を切ってコートを羽織り直して、袋を掴んで靴を履く。そこで漸く、先走ったさっきの行動に羞恥心がむくむくと湧いて出てきた。
まさか会えると思ってなかったから。
しかもわざわざ来てくれるなんて予想外の展開。
異常なほどに煩い心臓の音を聞きながら、扉を開けて階段を下りた。