第5章 無重力に花は咲く
持って生まれた性分なんて、人生を劇的に左右するような出来事がこの身に降りかからない限り、そう易々と変わらないんだ。だからそんな大それた意思なんてあたしにはない。でも。
「あたしのちっさな力が誰かの役に立つなら遠慮なく使ってくれていいよと思うだけ」
「へぇ、やっぱあるんじゃん、正義感」
「ないない、そこまで考えてないもん」
「花衣って怖がりなくせに強ェんだな」
「だからー、それもうやめてって」
誰にも言ったことがない。太刀川さんにすら。むしろ自分がそう思ってるってことさえ自覚がなかった。いつまでもからかいたいとばかりに弱い所を突いてくる蓮に、上手く誘導されたわけでもないのに。知り合ってまだ、数週間たらずの人間に少なくとも胸の内を話せるぐらいには心を許してる。ほんと、どうしたんだあたしは。
「ここ?花衣の家」
「うん、送ってくれてありがと」
迅さんに送ってもらった時みたいに、階段の前で足を止めた。
楽しかったな。
緊張しっぱなしだったけど。
繋がれた手から蓮の声が入って来た時は、めちゃくちゃ恥ずかしかったけど。
「明日、終わったら来いよ」
「店に?」
「おー、キャラメルラテ作ってやるから」
「わかった。疲れてるだろうからめっちゃ甘いやつでお願い」
りょーかい、じゃあな。手を振って来た道を戻ってく蓮の背中を見送った。あたしが楽しかったみたいに、彼もそう思ってくれてたら嬉しいな。またきっと、すごく緊張すると思うけど、蓮が嫌じゃないなら一緒に出かけたいな。
明日も会える。
そう思うだけで嬉しくて。
だけど今日はもうおしまい。
そう思うだけで寂しくて。
自分の中に、真逆の気持ちがせめぎ合ってる、このなんとも言えない感情が、くすぐったくて、なのにとっても心地よかった。