第5章 無重力に花は咲く
よし、行くか。少し前を行く蓮の背中を見つめながら、駅とモールを繋ぐ連絡通路を歩いた。
週末の午前中、さすがに人も多い。家族連れとか、仲の良さげなカップルとか、通路の壁の広告とか、また蓮の広い背中に視線をもどして着いていく。
すれ違う男の人には申し訳ないけど、彼のほうがダントツにカッコいいのは気のせいなんかじゃないと思う。背も高いしスタイルもいいし、顔だって。
現に女子の視線がそこかしこから突き刺さってきてる。でもきっと、蓮はそんなのには全くお構いなしな顔してるんだろうなと思ったらちょっと笑えた。
「花衣」
「ん?」
「朝メシ食った?」
「今日は食べる時間なかった」
「じゃ先メシだな」
振り返りながらそう問う彼は、行き先を調べようとしているのか、ズボンの後ろポケットから端末を取り出した。時折ちらちらと前を見ながら、器用に片手の親指を動かして。
なんで誘ってくれたんだろう。
蓮のそんな姿を見ながらふと思った。
なりゆき?
自分も映画に興味が湧いた?
ただの暇つぶし?
どれも当たってそうでどれも違ってそう。
じゃあなんだ?
観たいって言ったら、観に行く?って聞いてくれた。それって普通嫌いな人は誘わない、よね?てことは、あたしは嫌われてはないってこと、だよね?
もしそうなら、
嬉しいな。
だって蓮には嫌われたくない。
なんでか分かんないけど、恋愛の好きとかそう言う感情もあたしにはイマイチよく理解できないけど。でも蓮だけには嫌われたくないと思ったんだ。
「あれ?」
そんなことを考えていると、すぐ目の前にあった蓮の背中がどこにもないことに気づいてはっとなる。前を歩く知らない人の隙間から見えた、数メートル先の彼に少しだけほっとしたけど、人の多さが邪魔をして、近づこうにも至難の業だ。徐々に離れていく距離に焦りが先走る。