第5章 無重力に花は咲く
週末、映画当日。大型ショッピングモールの最寄駅で、変な緊張感は昨夜からずっと抜け切らない。
日付けが変わる前にベッドに入ったはずなのに、意識が落ちる前、最後に見た時間は深夜3時をゆうに越えていた。
まるで遠足前の小学生のように、興奮して寝付けなかった代償は、瞼の下に久しぶりに顔を出した薄い隈。
肌の治安が悪くなると、コスメを使う気にもなれない。でもさすがにすっぴんで出かけられるほどの度胸も勇気もないから、下地とファンデを駆使して極限まで隠してやった。
週3ペースで通っていたあそこには、今では週5にまで増えた。これだけ通って、これだけ顔を合わせてるにも関わらず、店の外で会うとなると、口から心臓出るんじゃないのってぐらいに緊張する。
どきどき。
どくどく。
規則正しいんだか、不規則なんだか分かんないリズムが頭にこびりついて離れなかった。
「わ!」
「うわっ!?」
「はは、めっちゃびびってんの」
「し、心臓止まるかと思ったでしょ!」
待ち合わせは午前中。遅れちゃいけないからって早めに家を出て、そしたらとんとん拍子で待たずに電車も乗れた。結果、30分も前に着いて、まだまだ来ないだろうと油断したところに、背後から肩を掴まれ耳元で声を出されちゃあ、体もびくりと跳ね上がるってものだ。
子供みたいな悪戯を仕掛けた張本人は、これまた子供みたいなイタズラな笑みを乗せて、満足気にあたしを見下ろした。
「来るの早くない?」
「花衣も早えじゃん」
「うん、早めに出たら早く着いた」
「俺は女の子待たせると拗ねて面倒だからいつも早めに来んの」
意地悪にそんなこと言うけど、あたしは知ってる。
さりげない気遣いも、分かりにくいけど良く見ると優しいのも。温かいままで飲んでほしくて、こっそりカップをあっためてたり。お客さんのその時の表情や雰囲気で、持ちかける話題を絶妙に変えてたり。
あの時だってそう。カフェアートもチョコも、疲れてんだろうなって察してくれたからだ。だからあたしがなるべく気を遣わないようにしてくれてるの、バレバレだよ。