第5章 無重力に花は咲く
ほんと良く見てるなこの人。でも残念、悲しいかな自覚はあるんだよね。そんなボケてないし。恥ずかしいから素知らぬ顔をしてるだけ。
あたしと同じようにしゃがんだ太刀川さんの、緩い言葉とは裏腹に、その風貌にはぴんと張り詰めたような空気が纏わり付いてる。
なんだろ、模擬戦してる時の太刀川さんともまた違った雰囲気。
警戒区域内を見下ろす横顔に、ちゃんとボーダーらしい顔もできるんだなって思った。この人黙ってたらかっこいいのに、とも。
「トリオン兵と対峙するより、なにもない時間のほうがキツいかも」
「ヒマなら端末弄ってていいぞ。あ、でもそのかわり他ではやるなよ、確実に怒られるから」
うん、どうせそんなオチだろうと思った。たまに太刀川さんから任務中にかかってきたりしてたから、規律もなにもないのかと不思議だったけど。この人のマイペースだか天然だか馬鹿だかにかかれば、規律なんて無いに等しいよね。そもそも守れる人なら単位がヤバいなんて理由で泣かないか。
任務開始からおよそ1時間。
やることが無さすぎて、つい出来心でお言葉に甘えてしまった。
ホームボタンを押せば、メッセージ受信が一件。中身を開くとあの日の帰り際、連絡先を交換した時に登録した名前が浮かんで、少しだけ鼓動が早くなる。
柚宇ちゃんがあんなこと言うから。
デートだの彼氏だのって。
だから本人が目の前にいるわけじゃないのに、変に意識してしまう。
あれ?
じゃあ仮に本人が目の前にいたら、あたしはどうなるんだ?
初仕事頑張れよって、受信した言葉をあの笑顔で直接言われたら?
瞼を閉じて、蓮の顔を思い浮かべて、浮かべた瞬間、そんなことをした自分にとてつもなく後悔した。
だめだ、めちゃくちゃ照れる。
恥ずかしい。なんだこれ。
なんかすごい、ドキドキした。
慌てて目を開けて、緩みそうになる口元を手のひらで覆うと、隣からチクチクと刺さる視線。首だけ動かして太刀川さんを見れば、目があった途端、あからさまに逸らされてしまう。
そこまでドン引きしなくてもいいんじゃないんでじょうか。ていうかそんな酷い顔してたのかあたしは。