第5章 無重力に花は咲く
「デートのことでも考えてたのか?」
「は?なんで知ってるんですか」
「あれだけでかい声で喋ってたら、あそこにいた連中みんな聞いてるっての」
「………う、そだ。って、デートじゃないし」
そうだよ、これはデートじゃない。
たまたまそうなっただけ。
異性の友達とごはん行ったり飲みに行ったりするのと同じ感覚だよ。だってほら、太刀川さんとだってそうでしょ?ごはんも飲みも2人でよく行くじゃない?それとなんら変わりないよ。
自分に言い聞かせるように、言い訳じみた言葉が思考をどんどん占領して。だけど言い聞かせるたび胸の内側から早まる音と、それに便乗するみたいに熱いものが込み上げてくる感覚。
どうしたあたし。
なんかおかしいぞ。
「望月」
来た。絶対来ると思った。見計らったみたいに名前を呼ばれたら、その後に続くだろうやり取りを容易く想像できてしまう。
恋バナに乗じて冷やかすだけ冷やかして、からかうだけからかって、声を荒げて怒ったり、はたまた照れてどうしようもなくなったりするあたしを、またバカにしたように笑うんだ、この人は、それも何なら指までさして。
「お前さ、」
「あ、ゲート出たよ。そこから東に500メートル」
「……わかった。すぐ向かう」
2人で並んで座って、見つめた先の太刀川さんが何かを言いかけた時、柚宇ちゃんからの通信。
彼女の声を聞いた途端に、背筋がしゃんと伸びた気がした。
「今なに言おうとしたんです?」
「いや?なーんも」
どこかバツが悪そうに、煙に巻いた太刀川さんが、日頃の訓練の成果を見せてもらうかって、あたしの頭をくしゃくしゃに撫で回す。ヘマしたら笑ってやる。聞こえた心情に舌を打って、でもこの人は動じなくて。
さっき、ほんの一瞬。いつもの太刀川さんとはかけ離れた表情が珍しくて、言葉の続きを求めたけど、それを聞かせてくれることはなかった。