第5章 無重力に花は咲く
「面白そう。観に行きたいかも」
「行ってくれば?彼氏と」
「いないの知ってて言ってんの?」
「え?」
どうせからかうつもりだったんでしょ。お互いの色恋ネタをお互いに披露したことは一度もないけど、家と大学とボーダーとここの往復しかしてないことは、察しがついてるだろう蓮の意地の悪い言葉にじと目で睨んでやった。
だけどどういうわけか、当の本人は疑問符だらけの表情。つられてあたしもなんでそんな顔してんの?って頭の中にハテナが浮かぶ。
「こないだのアレ、花衣のオトコじゃねぇの?」
「こないだ?」
「ほら、店閉める時に会った」
「………あー、違う違う、あの人はー、……」
なんだ?なんて説明すればいいんだ?師匠でもないし上司でもないし、お友達ではもっとない。じゃあなに、あたしの人生を狂わせた人?いやそれ言い方酷いな。
迅さんに送ってもらってる最中に出会したあの日のことを言ってるんだろう蓮が、言葉につまるあたしを見て、ニヤリとやらしい笑みを作った。
「花衣の好きな人?」
「なんでそうなった?」
「言いにくそうにしてたから?」
「言いにくいんじゃなくて、どの立ち位置にいるのか分からなかっただけ。あの人もボーダーの人だよ」
へぇ。まだどこか信用してない表情で、変わらずに口もとは緩みっぱなしで、隙あらばからかいたくてしょうがないって顔して。だから違うって言ってんのに。