第5章 無重力に花は咲く
「そういう蓮はどうなの」
「なにが」
「彼女、いないの?」
「気になる?」
「ならない」
「じゃあ聞くなよ」
「あたしだけひけらかしたみたいで気にくわないの」
「だからどんだけ負けず嫌いなんだって」
彼女いないの?じゃなかったな。彼女、何人いるの?って聞いてやれば良かった。綺麗な顔してんだもん、1人や2人いたっておかしくない。嫌味しかこもってないそれを音にしてやろうと口を開けば、先に蓮の唇が震えて。あたしの言葉は無理やり喉の奥に押し込まれてしまった。
「いたら週6で働いてねぇし」
「いなくても休み取ればいいでしょ」
「休むと会えねぇだろ」
「………あー、」
なるほど。そういうことか。なかなかに勘のいいあたしの頭は、今日は随分と冴えてるなと思った。気になる子、もしくは好きな子?がお客の中に紛れてるってすぐに分かった。さっきまで合っていた目が今は落とされてる所を見ると、強ち間違いではないんじゃないかとも。
「それに花衣と話してると面白ェし」
「へー、…………う、ん?あた、し?」
「そうだよ、って嫌なのかよ」
「え、いや、あの、……嫌じゃ、ないよ?」
嫌じゃないけどちょっと待って、なんか頭が混乱する。今の蓮の発言じゃ、休みいらないぐらいあたしと話すの楽しいって聞こえるんだけど。え、この解釈で、いいの、か?でもそれってあまりにも自意識過剰すぎる、よね?
自分の思考の不謙虚さになんだか恥ずかしくなって視線が下がる。捉えた先には雑誌の中の映画のタイトル。じっと見つめてそれでも落ち着かなくて、もう一度上げた視界に映ったのは、まっすぐに見つめる蓮の顔だった。
「それ、なんなら一緒に観に行く?」
「へ?」
「観たいんだろ?」
「……うん」
「じゃ決まりな」
軽くあしらうことにかけては天下一品。寄り付けば威嚇して、入ってこようものなら噛み付く。そんなあたしは何処へやら。
子供みたいににぃって笑った蓮の顔が、それをあたしに向けてくれてるってことが、すごく嬉しくて。気がつけば首を縦に振ってたんだ。