第5章 無重力に花は咲く
好きなものは甘いの全般。特にケーキには目がない。でも一人で買いに行くのは恥ずかしいから、だいたいはコンビニで済ます。
嫌いなものはコスメとか香水とか女の子独特の匂い。ずっと嗅いでいたら鼻がもげそうになって、気持ち悪くなる。
年齢は18で半年前に三門市に越してきた。高校は行ってない、理由は面倒だから。コーヒーが好き、人と話すのも好き、それが高じてたまたま募集していたここで働くことになった。
お互いの名前を教えあったあの日から数日。
これが蓮が話してくれた蓮の成分表だ。
「花衣」
「ん、ありがと」
サイフォンが並ぶ、カウンター席。
雑誌を片手、出してくれたエスプレッソの表面には小さなツリー。端末で写真を撮るのも、それを見た蓮が照れ隠しに苦笑するのももう定番になってしまった。いつのまにか、窓際からカウンターに変わった定位置も、今は全く違和感もなくて。むしろこっちの方がしっくりきてる。
あたしが来るたび相手をしてくれる彼は、ぺちゃくちゃと良く喋るなって、呆れてるかもしれないけど。
「あ、これ」
「ん?」
「最近公開になったやつ」
「なに、映画?」
「うん、ボーダーの知り合いが観に行くって言ってたやつだ」
大学の帰りにコンビニで買った愛読書の冒頭、1ページを目一杯使って大々的に宣伝している、今話題のアクション映画。柚宇ちゃんが友達と観に行くって言ってたのを思い出して、捲っていた指が思わず止まった。専ら映画館より自宅でサブスク派なあたしは然程興味もなかったけど、派手なアクションシーンの一部を収めたショットも相俟って、あらすじを読み終わる頃には好奇心をぐらぐらと揺さぶられてしまった。