第5章 無重力に花は咲く
「顔が引きつって気持ちわりぃ」
「ムリして笑うからだよ」
「しゃーねーじゃん、仕事なんだから」
「接客業は大変だね」
あたしには絶対むりだ。黙ってたら怒ってるの?って聞かれちゃうタイプだし。一段落した彼がカウンターに戻ってきて、眉間のシワを深くしたけどそれも一瞬。瞬きの合間に元に戻る表情が、自分は見られてるって自覚してる証拠。すごいな。ちゃんと徹底してるんだ。
あたしにしか聞こえない音量の言葉たちは、その顔にとっても不釣り合いだけど。
「そこまで大変でもない。話すの嫌いじゃねぇし」
「なら作ったキャラが大変だったんだね」
「接客業なんて絶対向いてないアンタに言われたかねぇよ」
「もう少し反論できそうな返しがほしかった。分かってるだけになんも言えないし」
洗いたてのカップ、ワッフルタオルの端を彼の指先が滑る。丁寧に水気を拭き取りながら、片方の口角だけ上げたやらしい笑い方に、文句を垂れるも華麗にスルー。そのかわり、カップの底が見えてるのに気づいて、おかわりは?そう聞いてくれる。
「なんか甘いの飲みたいかも」
「カフェラテ?」
「んー、カフェラテなぁ」
「キャラメルシロップ入れてやってもいいけど?」
「じゃそれで」
「はは、即答かよ」
だからキャラメルはダメなんだって。それだけで絶対おいしいの目に見えてるもの。