第5章 無重力に花は咲く
「お姉さん、ボーダーなんですか?」
「え、あ、はい。って言ってもなりたてなんですけどね」
「へー、すごいですね」
なんで知ってるの。そんな思いはすぐに掻き消され、テーブルに投げ出したシフト表やら数枚の書類に彼の視線が落ちてることで納得。
興味津々、とまではいかないけど、話しのネタ程度にチラ見したのか、その視線はすぐにあたしを映してやんわりと笑った。
なんか気持ち悪いな、この人のこの貼り付けたような笑顔もそうだし、取ってつけたような喋り方も。接客業だから仕方ないのかもしれないけど、違和感がありすぎてむず痒くなる。
「ねぇ、お兄さん」
「はいはい、なんですか?」
「その喋り方、どうにかなんないんですか?」
「どうにか?」
「はっきり言わせてもらうと、なんかすごい、変ですよ」
真顔で見つめられて、やば、はっきり言いすぎたか、もう少し包めば良かったかと頭を抱えそうになった瞬間、彼の唇が弧を描く。
「じゃあ、アンタの前だけ素に戻るわ」
悪戯好きな悪ガキみたいに、にぃって笑うその顔。うん、さっきのよりもずっといいよ。
「コンビニでしたみたいに威嚇はしないでね」
「あんな睨まれて、馴れ馴れしく声までかけられたら誰でもああなるし」
「そこまで馴れ馴れしくしてないし睨んでもないし。そっちも怖い顔してたじゃない」
「そういうアンタも大概ムスッとしてんだろ、いっつも」
ああ言えばこう言う。お互いに。
だけど口もとは緩んでる。これもお互いに。
扉が開く音が聞こえて、攻防は一時中断。がらりと変わって出てきた彼の偽りの顔がちょっと面白くて、吹き出してしまいそうになった。
立地的には決していい場所とは言えないのに、時間帯によればそれなりに混雑するこの空間。
夕方にもなると、平日でも関わらずばたばたするんだなって、オーダー聞きに行ったりカップ並べたり、忙しなく動いてる彼を見ながらそんなことを思ってた。
それにここ最近、若い女の子のお客さんも心なしか多くなったような気がする。
不自然にならない程度、後ろを向いてフロアを見渡し、あぁ、そう言うことねと腹に落ちた。
キラースマイルを炸裂して、さりげない気遣いも忘れずに。物腰柔らかな口調と、よく見ればそこそこの男前。例えそれが作り物だとして、それでも顔面偏差値の高い彼はモテる部類に入るんだと思う。
