第4章 仙籍
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、夜市の喧騒を後にした二人は再び騎獣で夜空を駆けて玄英宮へと戻ってきた。
尚隆の案内で誰も通らないはずの静かや裏手から、足音を完全に消して内宮へと忍び込む。
「よし、ここまで来りゃ一安心だ。お前さんの部屋もすぐそこ――」
尚隆がそう言って胸をなでおろしたその瞬間だった。
「……ずいぶんと楽しいお時間を過ごされたようでございますね、主上。それに、様も」
暗がりの廊下から聞き覚えのある声が響いた。
二人がびくりと肩を震わせて視線を向けると、そこには朱衡が影の中からぬっと姿を現すところだった。
その顔には一点の曇りもない完璧で凍りつくような笑みが浮かんでいる。
「朱衡……! お前、なんでこんな時間にこんな所に……」
尚隆が引きつった笑いを浮かべるが、朱衡の目は一切笑っていない。
「それはこちらの台詞にございます。深夜に王宮を抜け出し、おまけに先の式典で大役を終えたばかりの楽士殿を男装させてまで下界へ連れ回す。……これが、雁州国を五百年治めておいでになる御方のなさることですか?」
「いや、これはだな……」
「言い訳は結構です。明日からの政務の量を三倍に増やしておきますので、覚悟しておいてください。……そして様」
朱衡の鋭い視線がへと向かう。
式典のプレッシャーから解放されたばかりなのに、夜遊びがバレて完全に怯えきっている彼女は、身体を縮こまらせてすっかり落ち込んでいた。
「う……ごめんなさい、朱衡様……」
今にも泣き出しそうなの様子を見た尚隆は、すっと彼女の前に一歩踏み出し庇うように背中で隠した。
「おい朱衡、を責めるな。俺が一人で下界に行くのがつまらんからって、嫌がるこいつを無理矢理連れ出したんだ。こいつは悪くない」
「ほう……無理矢理、ですか」
朱衡が冷ややかに眉を上げると、尚隆の背中の後ろからが意を決したようにひょこっと顔を出した。