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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第4章 仙籍


「ほら、お前さんにやるよ」


「ええっ!? ふ、風漢さん、ダメです! そんな、申し訳ありません……っ」



急に差し出されたきらめく耳飾りに、は慌てて両手を振って固辞しようとした。
だが、尚隆はそれを強引に彼女の手のひらに握らせ、いつもの気楽な調子で笑った。




「いいから受け取っとけ。宮廷楽士拝命の記念だ。これくらい安いもんだろ?」


「でも……」


「それに、お前さんに似合うと思ってな。内宮に戻ったらつけてみろ」


(私に、似合う……?)



大切な想い人からの、思いがけない言葉。
ただの記念というだけでなく、彼が「自分に似合う」と考えて選んでくれたのだと思うと、胸の奥がキュンと甘く締め付けられ、切ないほどの愛おしさが込み上げてくる。



「……ありがとうございます。風漢さんが選んでくださったのなら……私、とっても嬉しいです」




は頬をぽっと薔薇色に染め、宝物を扱うように愛おしげに耳飾りを抱きしめると、堪えきれずに嬉しそうな笑顔を咲かせた。



「せっかくだから、今つけてもいいですか?」


「おう、好きにしろ」



尚隆が腕を組んで見守る中、は少し震える手で、頭巾の隙間から覗く耳たぶにその耳飾りを片方ずつ挟んでいった。



「……どう、でしょうか。変じゃないですか?」



少し緊張しながら、首を傾げて尚隆を見上げる。
静かなきらめきを放つ耳飾り。
男装の姿であるはずなのに、露店の灯りに照らされた彼女の横顔は、やはり隠しきれないほど可憐でどこか艶っぽかった。
尚隆はそれを見つめたまま、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
けれどすぐにいつもの不敵な笑みに戻ると、彼女の耳元の飾りを指先でちょんと揺らした。




「ああ、とんでもなく似合ってる。下界の安い飾りなのに、お前さんがつけると随分と上等なものに見えちまうな」


「ふふ、お世辞でも嬉しいです」




想い人からの贈り物に胸をいっぱいに満たしながら、は幸せそうに微笑み返した。
夜市の喧騒の中で揺れる小さな灯りは、二人の秘密の夜をより一層特別で忘れられないものに彩っていく。



宮廷の重圧から解放されたこの特別な夜は、二人の距離を縮めていった。







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