第4章 仙籍
「何言ってるんだ。お前さんは、先朝から続く我が現王朝の歴史の中で、あの偏屈な朱衡や楽士のじいさんどもを全員納得させて、国の大事な式典で見事な歌を捧げたんだぞ? 今や立派な、雁州国の『宮廷楽士』だろ」
「あ……」
「宮廷に仕える官吏が、仙籍に入っていなくてどうする。あの厳しい式典の準備を乗り越えたご褒美に、朱衡がとっくに手続きを済ませてたのさ」
尚隆の言葉に、の胸にじわじわと温かいものが広がっていった。
ただの可哀想な迷い人だった自分が、この国に認められ、正式に彼らの仲間として迎え入れられたのだ。
「……じゃあ、私、もう言葉で困ることはないんですね」
「ああ、そうだ。だから――」
尚隆は少し前を歩き出すと、振り返って灯籠の光の中で眩しく笑ってみせた。
「さっきも言ったろ? 楽しまなきゃ損だってな。ほら、美味そうな匂いがするな。行くぞ!」
「はい……っ、風漢さん!」
今度は俯くことなくは尚隆の隣へと駆け寄った。
賑やかな祭りの喧騒が、今はとても心地よく彼女の心を弾ませていた。
祭りの大通りには所狭しと屋台が立ち並び、パチパチと爆ぜる炭の音と一緒に香ばしいタレの匂いが辺り一面に立ち込めていた。
「風漢さん、見てください! あっちの屋台、すごく並んでますよ」
「あれは下界で人気の串焼き屋だな。夕飯は食ったはずだが……なんだ、お前さん、まだ腹に入るのか?」
「う……。実は、いい匂いにつられて、ちょっとだけ小腹が空いてきちゃいました」
お腹を押さえながら、恥ずかしそうに笑う。
尚隆はそんな彼女を「ははっ、いいじゃねえか」と促し、人混みをかき分けてお目当ての串焼きを二本買いに行った。