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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第4章 仙籍


隣を歩いていた尚隆は、彼女が急に静かになったことにすぐ気づいた。
その曇った横顔を覗き込み、歩みを緩めて問いかける。



「どうした、。祭りは嫌いか?」


「……いえ。お祭りは……本当はすごく好きです」



は男装の頭巾の端をきゅっと握りしめ、消え入りそうな声で胸の内をこぼした。




「でも……私、まだこちらの言葉もちゃんと分からないし。それに、下界にいた頃のことを思い出すと、どうしても少し怖くなってしまって……。いい思い出が、あんまり、ないので……」



暗い表情で過去のトラウマを口にする彼女を、尚隆は可哀想に思うような素振りは見せなかった。
ただ、一人の大人として、そして彼女を救い出した風漢として、ひどく落ち着いた頼りがいのある声で笑いかけた。



「なんだ、そんなことを気にしてたのか」


「え……?」



「今のお前さんなら、大丈夫だ。あの時とは違う。それに――」



尚隆はそこで一度言葉を区切ると、不敵で、けれど最高に格好いい笑みを浮かべて彼女を見つめた。




「お前さんの隣には、今、この俺がいる。何が起ころうと、指一本触れさせやしねえよ。せっかくの祭りだ、楽しまないと損だぞ?」




そう言って、尚隆は迷いのない足取りで再び前へと歩き出した。
その広い背中を見つめながら、は深く息を吸い込んだ。
不思議と彼の「大丈夫だ」という言葉を聞くだけで、胸を覆っていた暗い霧がすうっと晴れていくような気がした。




(そうだ……。今の私は一人じゃない。この人が一緒にいてくれるんだ)




「……待ってください、風漢さん!」



は小さく微笑むと今度はしっかりと顔を上げ、彼の後ろを追って賑やかな祭りの光の中へと一歩を踏み出した。





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