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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第4章 仙籍


赤くなって固まるを面白がりながらも、尚隆は少しずつ騎獣の高度を下げていった。



「ほら、下を見てみろ。今日はあの街に降りるぞ」



尚隆の声に促されて恐る恐る視線を下に向けるとそこには夜遅い時間であるにもかかわらず、まるで街全体が燃えているかのように明るく、眩い光の海が広がっていた。
何やら大きなお祭りでもしているらしく、遠目からでも人々の賑やかな熱気が夜の冷たい空気を通じて伝わってくる。



「……うわぁ、すごい灯り……」


「だろ? 下界では俺のことを『風漢』と呼べ。いいな?」


「はい、風漢様」


「様はいらねえ。風漢、だ」



そんな会話を交わしながら、尚隆は街外れの誰もいない静かな場所に騎獣を着地させた。
手慣れた様子で騎獣を近くの施設へと預けると、彼は「よし、行くか」とを促して、煌々と明かりが灯る賑やかな街の通りへと歩き出す。
だが、街に近づき楽しそうな人々の笑い声や、屋台から漂う美味そうな匂いがリアルに伝わってくるにつれて、の足取りは次第に重くなっていった。




(お祭り……楽しそう。でも、私には……)




彼女の脳裏をよぎるのは、この世界に流れ着いたばかりの頃の記憶だ。
言葉が全く通じず、自分がどこにいるのかも分からなかったあの孤独。
そして、妓楼という逃げ場のない地獄のような場所で男に散々好き勝手に抱かれ過ごした、あまりにも辛い下界での思い出。


それに、自分はまだこの国の文字を少し習い始めたばかりの海客だ。
仙籍のない普通の人とはまともに話すことすらできない。
そう思うと、胸の奥がキュッと締め付けられるように苦しくなり、は楽しそうな顔をすることすらできずに、ただ俯きがちになって自分の足元を見つめてしまった。



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