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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第4章 仙籍


「ええっ? 私なんかにですか?……あ、もしかして、式典の時の礼服が珍しかったからでしょうか。やっぱりあんな派手な格好の私がどこか可笑しかったのかも……」


「まぁ! 可笑しいだなんてとんでもない! 皆様、様の美しさと歌声に、文字通り骨抜きにされていらっしゃるのですわよ。主上があのように内宮に囲い込まれるお気持ちも、今ならよぉく分かりますわ」


「か、囲い込むだなんて、そんな……っ!」



からかわれて、またもや顔を真っ赤にする。
どれほど周囲が彼女を「伝説の天女」と崇めようとも、彼女の芯にある純朴さと、尚隆たちを想う真っ直ぐな気持ちは少しも変わらない。


そんな世間の喧騒から守るように今日も玄英宮の最も深い場所で、彼女の特別な歌声が静かに育まれていた。










式典の熱気もいまだ冷めやらぬ、ある夜のこと。
夜もすっかり更け、はそろそろ就寝しようと楽な寝衣に着替えていた。
温かいお茶を口に含みながら、付きの女官と今日一日の出来事をのんびりと話していた、その時だった。




カサリ、と窓の合口から忍び寄る気配がしたかと思うと、音もなく人影が部屋へと滑り込んできた。




「よぉ、夜分にすまねえな」


「――っ!? しゅ、主、上……!? 」




女官が思わず声を上げそうになり、慌てて口を両手で押さえる。
そこに立っていたのは下界へと赴く際に見に纏う「風漢」の姿をした尚隆だった。
無造作に崩した衣服とどこか不敵な笑みは、完全に夜の街に溶け込む風来坊のそれだ。
女官はすぐに取り乱したのを整え、深夜にもかかわらず若い娘の部屋に忍び込んできた王へ、眉をひそめて苦言を呈した。



「主上! いくらなんでも深夜に、就寝前の女子の部屋にこのような姿で忍び込まれるなど……! 官吏たちに知られたら、またどれほどのお叱りを受けるか分かっておいでなのですか?」


「まぁ堅いことを言うな。朱衡の耳に入らなきゃあ、何をしたって同じことさ」



尚隆は女官の小言をのらりくらりと言い流すと、目を丸くして固まっているに向き直りニカッと笑った。




「おい、。今から出掛けるぞ。支度をしな」




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