第3章 玄英宮に響く歌声
きらびやかな極彩色の刺繍が施された礼服は、彼女が動くたびにまるで五色の雲がたなびくように幻想的な光を放っている。
結い上げられた髪には細工の凝った金の髪飾りが差し込まれ、歩みを進めるごとにーーシャン、シャンと、清らかな鈴の音のような繊細な響きを周囲に落としていく。
何より目を奪ったのは、その佇まいだった。
妓楼の影など微塵も感じさせない、一点の曇りもない白磁の肌に紅を差した唇は、まるで春を待つ蕾のように瑞々しい。
普段の親しみやすい笑顔を封印し、国を背負う楽士としての覚悟を宿したその瞳はまるで極夜の空に輝く星のように、見る者を惹きつけて離さない神聖な光を放っていた。
(嘘だろ……。本当にかよ……?)
六太は目を見開いたまま、座席から腰が浮き上がりそうになるのを必死で抑えていた。
いつも自分に冷たい茶を淹れて「六太君」と笑いかけていた少女が、今はまるで、天界から月の光を纏って舞い降りてきた天女そのものに見える。
彼女が舞台に上がることをあらかじめ知っており、このサプライズを仕掛けた張本人であるはずの尚隆もまた、完全に言葉を失っていた。
(……おいおい、冗談だろ……)
尚隆の胸の奥でーードクンッ!と大きな衝撃が跳ねる。
美しく着飾るとは知っていたが、これほどまでとは想像すらしていなかった。
重厚な礼服に包まれた華奢な身体、歩くたびに揺れる金の飾り、そして真っ直ぐに前を見つめる気高くも美しい瞳。
いつも自分の愚痴を静かに聞いてくれていたあの愛おしい少女が、今はあまりにも眩すぎて手の届かない遠い存在のように思えてしまう。
長い時で数多の美女を見てきたはずの尚隆の心が、今、たった一人の少女の姿に、見たこともないほど激しく掻き乱されていた。
あまりの美しさに胸が締め付けられ、喉の奥がカラカラに乾いていく。
戸惑い、唖然とする王と麒麟。
そして宮廷の誰もが、言葉を忘れて彼女の一挙手一投足に釘付けになっていた。
そんな静寂の海の中、は静かに息を吸い込む。
世界が彼女のためだけに止まったかのような錯覚の中で、唯一無二の歌声が、今、ゆっくりと放たれようとしていた。