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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第3章 玄英宮に響く歌声


荘厳な雅楽が響く中式典は淡々と進んでいた。
祭壇に座る六太は、退屈のあまり今にもあくびが出そうなのを必死に堪えている。



(あーあ、早く終わんないかなぁ。朱衡のやつ、絶対俺の逃走経路に先回りして網張ってるし、今日は逃げ場がねえ……)



麒麟という神獣の宿命とはいえ、堅苦しい儀式は何度経験しても肌に合わない。
明らかに魂の抜けた顔をしている六太の様子を察し、隣の玉座に座る尚隆が微かに唇を動かした。
他者には届かない、低い声が六太の耳を打つ。



「おい、六太。退屈な時間はあと少しの辛抱だ。この後に『とっておきのご褒美』を用意してある。楽しみにしとけ」


「……あ? ご褒美ぃ?」



六太は訝しげに尚隆を睨み返したが王の横顔はいつになく真剣で、どこか不敵な笑みを孕んでいる。




(何企んでんだよ、このおっさん……。まあ、大人しくしてりゃ美味いもんでも食わせてくれんのかね)




そう自分を納得させ六太が再び前を向いた時、式典の空気が変わった。



楽士たちが奏でる調べが雁の伝統的な旋律から、どこか浮世離れした、けれど胸を締め付けるように美しい独特な和音へと変化していく。
その音色に導かれるようにして神聖な舞台へと歩み出てきた人影に、六太や居並ぶ官吏たちの息が止まった。



「――っ!?」




そこにいたのは誰も見たことのない、息を呑むほどに美しい少女だったーー。




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