第3章 玄英宮に響く歌声
式典当日の朝。
玄英宮はどこか張り詰めた、いつもとは違う慌ただしさに包まれていた。
特に、の私室は早朝からお祭り騒ぎだった。
式典で歌を捧げるという大役を担う彼女のために、女官たちがつきっきりで支度を調えていたからだ。
「まぁ……! なんてお美しいのでしょう……」
いつも着せてもらっているシンプルではあるが品の良い衣とは違い、今日用意されたのは最高級の絹に精緻な刺繍が施された式典用の礼服だった。
「あの……とても綺麗ですけれど、少し重いですね。頭の飾りも、動くたびにシャンシャンと音がして……」
「当然ですわ、国の大事な祭礼なのですもの。でも、本当に……まるで天界から降りてこられた天女様のようです」
「ただでさえ美しい様が、これほど着飾られて。主上もこの姿をご覧になったら、完全に骨抜きになってしまわれますね!」
口々に囃し立てる女官たちに、は一気に耳の後ろまで真っ赤にした。
「もう、皆さんからかわないでください……。主上はそんな、私の格好なんて気になさらないと思います」
「いいえ、この美しさにはどなたでも目を奪われますわ。さあ、口紅を。……よし、完璧です!」
最後の手直しを終え、女官たちに見送られて控え室へと移動したは、一人静かに贅沢な長椅子に腰を下ろした。
(本当に、私がこの国のために歌うんだ……)
胸元に手を当てると、トクトクと緊張の鼓動が伝わってくる。
けれど、不思議と恐怖はなかった。
重たい衣装の感触がかえって「楽士」としての覚悟を思い出させてくれる。
あの暗い妓楼から、光あふれる玄英宮へ。
自分をここまで連れてきてくれたあの優しい「風」のために。
は静かに目を閉じ、胸の中で何度も練習した旋律をなぞりながら、その時が来るのをじっと待っていた。