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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第3章 玄英宮に響く歌声


玄英宮へ来てから数ヶ月が経ち、宮廷を囲む木々の葉もすっかり色を変え新しい季節の訪れを告げていた。
ある日の午後、いつものように朱衡の目を盗みの元へ逃げ込んできた尚隆は、彼女の瑞々しい歌声を堪能して深く息を吐き出した。



「ふぅ……生き返るな。お前さんの歌を聴いていると疲れも吹き飛ぶ」


「ふふ、お疲れ様です。お役に立てているなら嬉しいです」



淹れたてのお茶を差し出すに、尚隆はふと真面目な顔を向け茶杯を弄びながら切り出した。



「なぁ、。折り入って頼みがあるんだが……今度の、災厄鎮静と水害祈祷の催事で、歌を歌ってくれぬか?」


「え……?」



想定外の言葉には目を丸くした。



「それは国の大事な式典、ですよね? 私のような者が、そんな大役に……?」


「急に驚かせて悪かったな。だが、急な思いつきじゃない。前々からずっと考えていたことだ」



尚隆は立ち上がると窓の外に広がる雁州国の広大な空を見つめた。



「お前さんの歌には、人の心を動かす力がある。それは俺や六太、女官たちだけじゃない。この国を脅かす災いや、不安を抱える民の心さえも鎮める力がな。楽士たちも納得している。……どうだ、引き受けてはくれないか?」



真っ直ぐに向けられた王の眼差し。
その言葉の重みに、は一瞬だけ自分の手を握りしめた。
緊張で心臓がトントンと跳ねるけれど、迷いはなかった。



「……はい。私の歌が、この国のためになるのなら。……何より、私を救ってくださった、大切な尚隆様のためならば……喜んで、務めさせていただきます!」



顔を少し赤くしながらも凛とした声で応える彼女に、尚隆は満足げに破顔した。



「そうか、受けてくれるか。ありがとな。楽しみにしたいる」



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