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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第3章 玄英宮に響く歌声


は小さく首を振ると、濡れた睫毛を震わせながらも凛とした微笑みを浮かべた。



「とんでもないです。こうして尚隆様が私を見つけてくださって、こんなに素敵な場所に連れてきてくださった……。それだけで、私は今、世界一の幸せものです」



「……」



「確かに、あの地獄のような日々は、思い出すだけでも足が震えるほど辛かったです。でも……その日々があったからこそ、あの日、尚隆様に見つけてもらえた。もしあの日々がなければ、今ここでこうしてお話しすることもなかったのかもしれません。……そう思うと、私はもう、何も後悔していません」




真っ直ぐに、一点の曇りもない瞳で自分を見つめる少女。
その瞳の輝きがあまりに清らかで、尚隆は一瞬、息を呑んだ。
胸の奥がかつて感じたことのない早鐘を打つのを感じる。



(……参ったな。こいつは……)



少しの間言葉を失って呆然としていた尚隆だったが、は空気を変えるように、パッと表情を明るくした。




「あ、そうだ! 今日、お二人の歴史や、胎果だってこと、蓬莱での出来事も少しだけ聞いたんですよ」


「ほう? 玉葉か……蓬莱の事を知るものは限られてるからな」


「ふふ、そうです。……でも、尚隆様は気さくで、とてもお若く見えるのに、実は五百歳以上のおじいさんだったんですね?」



悪戯っぽく、いたずらっ子が秘密を見つけたような顔で笑いかける。
その天真爛漫な様子に、尚隆は毒気を抜かれたようにドッと笑い声を上げた。




「くっ……ははは! 言ってくれるじゃねえか。五百歳のおじいさん、か」



尚隆は空になった猪口を置くと、わざとらしく腰を叩く仕草をしてみせた。



「全くだ、とんでもなくな。中身はボロボロの古木みたいなもんだ。お前さんのような若い娘に相手をしてもらうのが、申し訳ないくらいだ」


「そんなことありません。私、おじいさんな尚隆様も、とっても素敵だと思いますよ?」


「……お前なぁ。さらっと恐ろしいことを言うな」



尚隆は苦笑しながらも、その瞳には先ほどよりもずっと温かく、深い光が宿っていた。




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