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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第3章 玄英宮に響く歌声


「最初のひと月は見習いとして、言葉も分からないまま芸や作法を叩き込まれました。それから半年くらいは……無理やり、男の人の慰みものにされて。……毎日が辛くて、怖くて……地獄のようでした」



思い出すだけで、指先が微かに震える。
瞳に熱いものが込み上げ、視界が滲んだ。



「……出口のない真っ暗な場所にいるみたいで。ただ涙を流しながら、故郷のことを思って歌を口ずさんでいたんです。そうしたら、偶々それを聞いた女将さんが私の声を気に入ってくれて……。それからは『歌い手』として扱われるようになりました。男の人に抱かれることもなくなって、少しは……マシな生活に、なりましたけど……」



そこまで話しては溢れた涙を指で拭った。



「ごめんなさい。せっかく尚隆様が休みに来てくださったのに、こんな暗い話を……」



尚隆は酒を飲む手を止め、静かに彼女の話を聞いていた。
いつもの不敵な笑みは消えその眼差しには王としての鋭さと、一人の男としての深い静寂が宿っている。



「……いや。話してくれて、ありがとな」



彼は短くそう言うと、空になった猪口を置いた。
自分を救った男が、この国の王だと知ったあの日。
その王自身がかつて蓬莱で国を失い、海を渡ってきた「胎果」であることを知った今だからこそ、はこの告白ができたのかもしれない。
尚隆は立ち上がることなく、ただ静かに、夜の闇に紛れるように座る彼女を見つめ続けていた。




「……助けに行くのが、随分と遅くなってしまったな。すまなかった」



ぽつりと溢した尚隆の声は低く、どこか絞り出すような響きを帯びていた。


酒の勢いで愚痴をこぼしていた先ほどまでの男とは違う、一人の娘の過酷な運命を真っ向から受け止めた男の顔だった。



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