第3章 玄英宮に響く歌声
女官から聞いた、二人が「胎果(タイカ)」であるという話や、過去の突拍子もない逃走劇の数々。
それらはにとって少しだけ遠い存在だった王と麒麟を、ぐっと身近に感じさせてくれるものだった。
「お二人のこと、もっと深く知れて良かったです。ありがとうございます」
そう伝えた日は、あいにく朱衡の監視の目が厳しかったらしい。
結局、陽が落ちるまで尚隆と六太が彼女の前に姿を現すことはなかった。
夜になり、女官たちを下がらせて一人で寛いでいた時だった。
「……よう。まだ、起きてるか」
珍しく、尚隆が一人で訪ねてきた。
手には酒器を携えているが、その表情はいつになく酷くやつれている。
「尚隆様! お疲れ様です、夜遅くにどうされたのですか?」
「ああ……。今日も朱衡の奴に散々こき使われてな……英気を養う暇もなかったからな」
尚隆はよろよろと座り込むと、猪口に注いだ酒を一気に煽った。
「それは災難でしたね。少しはお休みになれましたか?」
「ちっともさ。あいつ、飯を食ってる間も隣で予算の話をしてくるんだぞ……。お前も飲むか? 雁の銘酒だ」
差し出された酒器に、は苦笑いしながら首を振った。
「いえ、私はまだ未成年ですので……」
「未成年? ……ああ、そういえば今の蓬莱や崑崙にはそういう決まりがあったな。……そう言えば、お前さんは今、いくつなんだ?」
尚隆がふと、手元を止めて問いかけた。
「……十七、です。こちらに流れ着いた時は十六でした。それから一年ほど、あの場所にいたので」
静かな夜の空気には今まで胸の奥に仕舞っていた過去を、ぽつりぽつりと話し始めた。