第11章 アイミスユーの後遺症
「おーそー、…………」
いー、と続くはずだった自分の声が喉の奥に張り付くと、途端に息も吸えなくなった。近づいてくる輪郭が私の視界に入り込み、同じタイミングで心臓が爆音をかましてくる。
ゆっくりと、確実に大きくなっていく形は見なくてもわかる。ここに来ることなど絶対有り得ない研磨くんだって。
なんでいるの。必死に絞り出したと言うより脊髄反射に近かったそれは案の定自分でも聞き取れないほど小さかった。頼んだの、おれだから。どこかバツの悪そうな表情で呟く彼が私の隣に腰を下ろす。ああ、そう言うことか。
「黒尾さん経由?」
「うん」
「なんで」
「じゃないと連絡取れないでしょ」
誰かさん、ずっと無視してるし。
俯きがちな彼の視線の先、足元のどこか一点を見つめたまま、その横顔からは表情が掴めないけど怒ってるでも呆れてるでもない声はただ事実を伝えているだけだった。
でもその事実にはほんの少しの語弊もある。
「なんで避けるの」
「………」
「おれなにか怒らせるようなことした?」
「してないよ」
「じゃあなんで」
私はあの日彼に会いたかった。あの日よりもっと前、自分の気持ちを自覚してからずっと会いたかった。
友人枠に入っていた頃には難なくできていた事も、その枠を飛び越えてしまったらいちいち余計な思考に邪魔されてしまう。
頻繁にメッセージ送るのはあり?気軽にご飯誘ったら迷惑?いつもの距離感?あれ?どんなだっけ。
そんなことを頭の中でぐるぐる回してから辿り着いた、なんとも下心満載な閃きは彼の好物を届けてみようと、単純にもほどがある接触の仕方だった。
だけど研磨くん家の玄関先、見えた光景が見たくなかった知らない女の子の、目をキラキラさせながら口元を緩めた表情で。それが何を意味するのかすぐに分かってしまった。