第11章 アイミスユーの後遺症
「びっくりしすぎでしょ」
「えっと、……すき?」
「うん」
「私を?」
「うん」
「研磨くんが?」
「そこ引っかかるとこじゃないと思うんだけど」
寧ろそこしか引っかからないよ。だって嬉しそうに話してたし、雰囲気だってモロ恋人のそれだった。
思い出すとどんどん鮮明になってく記憶に息が詰まって苦しくなる。見た光景が堂々巡りで浮かんで消えて溜め息が唇を震わせる毎日に、それでも意識を逸らすことでなんとか堪えていたのに。なんで今になって泣きそうになるんだ私。
研磨くん彼女いるんでしょ、辛うじて出た声は情けないほど弱く掠れてた。
「やっぱり見てたんだ」
「うん、ごめんね。声かけづらくて帰っちゃった」
「花衣はさ、おれのことどう見てるか知らないけど、」
「うん」
「なんとも思ってない子に何回もメッセージ送らないし、わざわざクロに頼んでまで呼び出さないよ」
そこまで器用じゃないから。
無意識に落ちていた目線を上げる。隣の彼は目尻を溶かすみたいに笑って、その表情だけで私はまた酸素を奪われたように苦しくなるんだ。
「彼女なんていないよ、おれはずっと花衣だけだったよ」
「ほんと、に?」
「ほんと。ずっと昔から花衣しか見てない」
ぶつけられた言葉と刺すような視線はどう考えても茶化しているようには見えなくて、ああそうか、押しの強さも今までの言動も私が勘違いしていただけで、彼もただ余裕がなかっただけなんだ。
「おれの彼女になってよ」
その言葉が鼓膜を震わせてすとんと胸に落ちた。
何年も前からこの街のあちこちにこびりついていた、苦くて痛い失恋の記憶。そんなものは、目の前の彼が浮かべたひどく必死で、それでいて熱い温度を持ったその表情に一瞬で塗り替えられていく。
「……よろしくお願い、します」
掠れた声でそう返せば彼は満足げに、けれど少しだけ意地悪く口角を上げた。
厄介だったはずのこの土地の記憶は今日この瞬間から彼という名の劇薬みたいに甘い後遺症に変わったんだ。
アイミスユーの後遺症
(ねぇ、いつから好きだったの?)
(教えない)
(なんで?)
(言ったらたぶん花衣は引くから)
(えー)
(おれから離れられないぐらい好きになった時に教えてあげる)
(重いな)
(イヤ?)
(ううん、最高です)