第11章 アイミスユーの後遺症
背を向け逃げた自分の足取りは驚くほど軽いくせ、胸の奥が焦げつくようなドロドロとしたものを抱えた体は痛くて重かった。
ああ、終わった。わずか数週間足らずの私の恋、さようなら。今までの彼の言動と彼女できたのなら言ってよって思いが重なってしまうと、勝手に八つ当たりしそうになって心がぐちゃぐちゃだった。そんな状態で、何食わぬ顔をして彼と関わるなんて私にはできない。
ちょっと待ってちゃんと整理するから。そう自分に言い訳をしていたら日にちばかりが過ぎて、気づいたら届いたメッセージにも何をどう返せばいいのか分からなかった。
避けたくて避けてたわけじゃない。身の振り方が迷子になってただけだ。
「言わないとだめですか」
「言ってくれたほうがすっきりはするよね。一応これでも心配はしてたから」
「そこはごめんなさい」
「で?なんで避けてたの」
「いやめっちゃぐいぐい来る」
「当たり前でしょ」
珍しいなと思った。食い下がる彼を見たのは初めてだ、とも。いつだって掘り下げるのは私のほうで研磨くんにかかればたわいない会話は会話としてじゃなく、ただ言葉が流れて見えているだけなんだと。
興味のない文脈はただの空気で、この人のセンサーに引っかからなければそこに疑問を持つことすらしないだろうと思ってた。
なにが当たり前、なのか。途方に暮れる私をやっと見た彼は、分からない?とでも言いたげな表情をしていた。
「花衣ってたまに腹立つぐらい馬鹿になるよね」
「失礼極まりないねそれ」
今度はちゃんと呆れてる。わざとらしく聞こえるよう息まで吐き出して。
「おれは花衣に避けられるのが嫌だったよ」
「だからそれはごめ、……」
「好きな子にああいう態度とられると、」
めっちゃへこむって、知ってる?
彼の言葉に耳を疑って、とうとう幻聴まで聞こえだした私のそれはポンコツなんじゃないかと目まで丸くなる。
ぱちぱちと数回瞬きを繰り返す間も呼吸は徐々に浅くなり、吸って吐き出すと言う単調な行為さえ忘れてしまいそうだった。
好きな子、って、私のこと?え?好きの好きはあの好き?ってどの好き?
ゲシュタルト崩壊一歩手前な脳内のとっ散らかった惨状が、表にも露骨に出ていたのか、呆気に取られる私を見つめる彼はどこか困ったように笑う。