第10章 ノンセキュリティ・ブランケット
「押しが強かったのかも」
「うん、研磨くんって遊び人になったの?って聞かれたわ。って、もう俺にも隠さないのな」
「別に隠してたわけじゃないよ。バレてると思ってたから言わなかっただけ」
「こんなに分かりやすいのになんで花衣は分かんないのかね」
そんなのおれが聞きたい。
言葉一つ、態度一つ、彼女に向けた全てに意味があるのに。
簡単にぐらついて倒れてくれたら、もう戻れないところまで踏み込んでくれたら、そこでやっと地固めは完璧になるはずだったのに。
打っても打っても響いてるのかすら分からない。仕掛けたところで返ってくる反応に色が付いたこともない。躍起になってこっちにおいでよと誘導しても手応えなんていつも感じられなかった。
「ゲームより難しい」
「そりゃあ、こっちは生身ですから」
機械のバグならマニュアルに沿って修正すれば秒で元通りになる。
でも現実はほんの些細なタイミングと勘違いで呆気なく亀裂が入ってしまうんだ。
「強引にでも会いに行ってちゃんと話てみ?案外効果あるかもよ?」
「強行突破とか苦手なんだけど」
口ではそう言いつつ、修復不可の大きな溝ができるほうがもっときついのは分かってる。
「ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど」
時刻は午後8時を少し回った時間帯。
場所は繁華街の居酒屋。
豪快にビールを煽るクロにした提案は冷やかしと好奇心が大好きなこの男の口角を予想通り、見事に持ち上げてくれた。