第9章 さあ、時は満ちた
と、半ばヤケクソで一気に捲し立てると、今まで黙って聞いていた黒尾さんが、研磨をチャラ男にする発想が斬新だわ。なんて笑うけど、当事者は全く1ミリも笑えない。
目の前で繰り広げられた出来事の情報が多すぎてお手上げ状態なんだ。
「斬新でもなんでも、そう捉えられても仕方ないと思います」
「なんでそう思うの」
「だって、……」
仮に研磨くんが好意を持ってくれてる前提のアプローチだとして、それでもやり口が些か難解すぎる。確信的な言葉が欲しいわけじゃないけど、もう少し分かりやすくしてくれてもいいんじゃないか。
だけどそうしないのは、やっぱり私の思い上がりで、彼からすればただのコミュニケーションの一貫。それ以上でもそれ以下でもない、別に深い意味などないんじゃないか。
ああでもないこうでもないと、頭を捏ねくり回したおかげで険しい表情でもしていたのか、言い淀む私を見ていた黒尾さんの視線がほんの少し上に上がる。
一瞬なにか考えた素ぶりを見せた後、俺は研磨じゃないのでアイツが何を考えてるかはわかんねぇけど、とわざわざ前起きまでする彼に、言い知れぬ感情が腹の底から湧き上がってくる感覚になった。
「もしお前の言う研磨がチャラ男だとしたら、花衣1人にベッド使わせて自分は他所で寝るわけないでしょ」
「そう、だけど、」
「そして普通の男子はただの友達をベッドに寝かせることすらしないの、研磨なんて尚更な」
「まってまって、なんかややこしいそれ」
「要するにだ、研磨はお前を弄んでるわけでも、ただの友達とも思ってないってこと」
「………またそんなはっきりと」
はっきりもなにも、それが男の習性ってやつなんですよ。
さらっと、しれっと、さも当たり前のように言ってのける黒尾さんの的確な回答は、それならなんで、あんな遠回しな言い方でじわじわ刺してくるんだよ、としか思えない。ただでさえ都合良く捉えそうになって、冷静さを欠いた頭を無理やりリセットしたのに、これじゃまた逆戻りだ。
抑揚の少ない、でも低くて落ち着くあの声で、呟くように漏らした言葉と射抜く視線。そうかと思えば口元を緩めて笑う表情を、思い出すだけで顔が熱くなりそうだった。