第9章 さあ、時は満ちた
「なにがどうしてこうなった」
「仕方ねぇだろ、理子ちゃんバイトなんだから」
「知ってるけど!知ってるけど!」
「そんなとこ突っ立ってねぇで、まぁ座りなさいよ」
私が召喚したかったのは、もっとこう、小柄で華奢で美人な女の子であって、いつも何かしら企んで先の先まで見透かす大男じゃない。
研磨くんがおかしい!私の知ってる人じゃない!絶対あの人別人だ!アブダクションされたんだよ!
彼の家で目覚めた数時間後、脱兎の如く家を出てから理子にしたラインの怪文書は、自分でも自覚してる。相当頭がイカれてると。変に気持ちが昂っているせいで、前日からの全てを早急に吐き出したかったのに。
ごっめーん!今日バイト!変わりに救世主派遣するからまた今度聞かせて!あ、いつものカフェね!って語尾に無数のハートを付けて返ってきた時点でなんとなく予想はしてた。うん、理子さん、この人は救世主じゃなくて悪の使者です。
「で?理子ちゃんからちらっと聞いたけど」
「なんで話す前からニヤニヤしてるんですか」
「いや悪い、研磨の執着にあてられたお前のライン思い出してだな」
「ほんと最悪」
彼女がご丁寧にスクショを送ったのか、はたまた一緒に居るタイミングで私がラインを送ったのか、標準装備の不適な笑みを向ける黒尾さんの目の前、ちょっと怒ってますみたいにわざと音を立てて椅子を引いた。
店員にアイスティーを注文する間も、メニュー本を立て掛けておしぼりの封を切る間も、ずっと唇の端を持ち上げてる彼に威嚇しそうになったけど、わざわざ私の為に時間を作ってくれたのも事実だ。
気合いを入れるべく深呼吸。何から話せばいいのか、筋道を立てるより早く口が回ったのは、答えが欲しかったから。
どう言うつもりであんなこと言ったのか、私の反応を見て楽しむ趣味でもできたのか、好きでもない女の子に思わせぶって、実はとんでもない遊び人だったとか?
一線を引いた関係を壊すと言う、ただゲーム感覚で攻略したいだけのお遊びにするには、私のダメージがあまりに大きすぎる。
そのくせチャラ男のレッテルを貼るには物足りない。真のクソ男はわざわざベッドを1人で占領なんてさせてくれないもん。