• テキストサイズ

【鬼滅】霞にほどける嘘 *時透無一郎*

第1章 嘘




 その後も何度か時透様は蝶屋敷へ来ることがあった。
 その度に私は理由をつけて逃げるように蝶屋敷から離れた。

 でも、ある知らせを聞いたとき、胸の奥が冷たくなった。

「時透様が任務で怪我をされたらしい」

 蝶屋敷の廊下で、誰かがそう話しているのが聞こえた。怪我は柱では珍しい。柱は怪我を負う間もなく斬ってしまうから。
 それとも上弦に出くわしたのだろうか。そうなれば深手を負っているはず。
 胸の奥が、ざわりと騒いだ。

 けれど、行っちゃダメ。そう言い聞かせる。私は、距離を置くと決めたのだから。
 それなのに。
 気づいたときには、足が動いていた。

 廊下を早足で進む。診察室の前を通り過ぎ、奥の部屋へ。
 扉の前で、ようやく立ち止まった。

 来てはいけない。そう思う手が震える。

 ほんの少しだけ戸を開けた。部屋の中は静かだった。
 布団の上に、長い髪が広がっている。
 扉とは反対の方を向く時透様の表情は窺い知れない。けれど露わになった腕や肩には包帯が巻かれていた。

 思ったよりも怪我は深そうだった。無意識に、一歩近づく。

 そのとき。

「……君」

 突然声がした。びくりと体が止まる。時透様は向こうを見たまま、ぽつりと言った。

「やっぱり来た」

 ゆっくりと視線がこちらへ向く。長い髪がゆっくりと頬から落ちる。そして霞の瞳が、まっすぐ私を見る。

「……すみません」

 思わず頭を下げた。

「お怪我をされたと聞いて……」

 言葉が途切れる。何を言えばいいのか分からない。避けていたくせに。顔を出す資格なんてないのに。


/ 25ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp