第3章 風
気づけば、私は一歩前に出ていた。
「違います……!」
喉が裂けるように痛い。それでも、言葉を止めてはいけないと思った。
「斬ったのは……私です……! だから……」
視界が滲む。それでも、目を逸らせなかった。
「血鬼術にかかっていたとしても……刀を振るったのは、私です……!」
震える手を、強く握る。兄弟子のように、強くありたいと願いながら。
「だから……責任は、私が……」
一度、言葉が途切れる。
──怖い。それでも……
「私が、償います……」
はっきりと言い切ったその瞬間、空気が静かに変わった。
お館様が、すっと息を吸う。
「カヲル」
穏やかな声だった。
「それは、誰にでもできる償いだよ。けれど、カヲルにしかできない償いがあるのではないかな」
責めるでもなく、諭すでもなく。ただ、真っ直ぐに紡がれる言葉。それだけで、逃げ場がなくなる。
「人の命を奪ったという事実は、決して消えることはない」
静かに、断言される。
「どれだけ望んでも、なかったことにはならない」
事実を突きつけられ、胸の奥が重くなった。
「だからこそ」
言葉が、やさしく落ちてくる。
「カヲルは、生きなければならない」
息が止まる。
終わらせることよりも、背負って生きることの方がずっと重く、苦しい。その事実を、突きつけられる。
「その痛みも、後悔も、すべてを背負って生きて行くことは、容易いことではない」
やわらかな声なのに、 涙が溢れて止まらなかった。
「けれど、それは償いと共に、カヲルの代わりに責を負おうとした実弥の想いにも、応えることになるんだよ」
ほんの少しだけ、声が和らいだ。
視界が完全に滲み、堪えていたものが一気に崩れた。
ぽた、と涙が庭の石を濡らす。
「……はい……!」
ようやく、声になった。
隣では兄弟子が何も言わず、ただ深く頭を下げている。
「カヲル、君は良い兄弟子をもったね」
「……はい!」