第2章 声
扉が閉まる音が静かな屋敷に響く。
隊服の上着を着ながら、廊下を歩く。さっきのやり取りをぼんやりと思い返すと、浮かんでくるのは組み敷いたカヲルの顔と声。
苛立ちに似た感情が湧き上がってくる。何に苛立っているのかさえわからないまま、隊服のボタンを閉めた。
角を曲がったときだった。
「ねぇカヲルって隊士ここにいるんだって?」
「ああ、隊士を斬った人でしょ? しかも隠にもなれなかったって知ってる?」
「中途半端ね」
カヲルの名前に足が止まる。視線だけを向けた。隊士たちは、僕に気づいていない。
どうでもいい会話。本来なら、気にする必要もない。でも、カヲルの名前が耳に残った。さっき感じた苛立ちが、より濃くなって広がる。
「ねぇ」
二人の肩が跳ねた。振り返った顔が、一瞬で青ざめていく。
「か、霞柱……!」
僕は少し首を傾げた。
「今、何の話してたの?」
「い、いえ……その……」
答えになっていない。あぁ、苛立つ。
「カヲルって言ったよね」
名前を口にした途端、空気が張り詰める。明らかにバツの悪そうな顔した二人はお互いを見合った。まるで罪をなすりつけ合うみたいに。
「容易くその名前、口にしないでくれる? 汚れるから」
知ったばかりの名前。忘れないようにしまっておこうと思ってるのに。
そんな容易く口に出さないで欲しい。中途半端って? なに?
剣士にも隠にもなれないとわかっていても鬼殺隊に身を置く覚悟があるカヲルが中途半端なら、君たちはそれ以下だね。
しん、と廊下が静まり返る。自分でも、なんでこんなことを言ったのか分からない。ただすごく腹が立った。
「それだけ」
僕はそのまま歩き出した。