第2章 声
布団に横になって、壁をぼんやり見ていた。胡蝶さんに「安静に」と言われたけど、眠れる気はしない。肩の傷は、じんわりと熱を持っている。けれど、痛みより気になることがあった。
あの人。任務の最中、思い出してしまった。あれから何度か蝶屋敷へ来たけれど、姿は見えなかった。やっぱり避けられているのか。
もしそうなら——
……少し、寂しいかもしれない。
そんなことを考えていたとき、廊下の向こうで足音がした。
静かな蝶屋敷では、足音はよく響く。その音が、この部屋の前で止まった。
扉の向こうに、誰かがいる。気配だけで分かる。
少し迷っているみたいだ。
なぜかあの人が来るような気がしていた。どうしてそう思ったのかは分からない。
扉がほんの少しだけ開いて背中に視線を感じる。
そっと一歩近づく足音。その気配に、なぜか鼓動が早くなった。
僕はまだ、振り向かなかった。本当は君から声をかけて欲しかったのに。
君はいつまでも黙ったままだから。
「……君」
びくりと、空気が揺れる。やっぱり。
僕は少しだけ息を吐いた。
「やっぱり来た」
ゆっくりと視線を向ける。髪が頬から流れて、視界が開ける。
そこに立っていたのは、やっぱりあの人だった。
庭で会った人。避けられていると思っていた人。でも今は、ここにいる。
「……すみません」
その人はすぐに頭を下げた。
「お怪我をされたと聞いて……」
言葉が途中で止まる。どうしてそんな顔をするんだろう。
謝ることなんて、ないのに。
むしろ——
少しだけ、嬉しかった。
彼女は、床を見たまま頭を下げていた。どうしてそんなことをするんだろう。
僕は小さく息を吐いた。
「君のせいだよ」
その言葉に、はっと顔を上げた。
「え……?」
視線が合う
「任務中、ちょっと考え事してて」
包帯の巻かれた腕を軽く持ち上げる。
「そしたら斬られた」
別に大したことじゃない。そう思って言っただけだった。けれど君は、少し眉を寄せた。
「……考え事?」
「そう」