第2章 借り物/ブルーロック/糸師凛/幼馴染み/シリアス日常
「…………冴」
自分の口から出た言葉を受けて、繭は自分で目を覚ました。
無意識とはいえ想定外の人物の名前が口から出た事実を、自分で信じられない思いになる。
自分を納得させるための思考が流れ込む。即、それを断つように、乾いた音が投下された。
「…………、…………」
目の前に強制的に落ちるのは黒い制服の袖口だった。
黒から細くのぞくのはYシャツの白、そして手の甲とやや筋張る指先だ。それが触れるのは机に伏せられた参考書。
その音は荒さとも攻撃とも違う。言わば、冷たく、鋭く、刺すような温度を含む。手元だけでは誰かの判断は出来ない。だが、状況だけで誰なのかの判断はつく。
「寝ぼけんな」
空気はよじれ緊張する、明らかにその場には圧があるのに凛の声色は普段とほぼ変わらない。揺らぎを見せないその様が、むしろ強い違和感だ。
回らない頭をようやく持ち上げた頃には、目の前には友人一人だけになっていた。
「繭……、今の、フォローしなくて……いいの?」
しどろもどろになる友人を見ながら少し考えた。
フォローも何も誰が誰の特別枠でもないし理屈ではそんなものは不要だとわかる。ただ、凛にとって快とは言えない何かに触れた可能性も理解は出来る。その回収の役割も責任も、繭にはないだけだ。
「そっか……繭って糸師くんと幼馴染みってことは、あの糸師冴とも幼馴染みってことになるのか……
なんかその視点抜けてた。……繭って糸師くんの話もあんまりしないけど、糸師冴の話は全くと言っていいほどしないから……
って……え?それ、……そういう、意図的なアレ?裏返し的な?……え?そういう……?そういうこと?!」
残念だが友人の推理は少し違う。色恋めいた楽しい話は何もない。ただ何か、うまく言葉に出来ないものが残る気がするのも事実だ。