第8章 孤高の剣士
「…… 桜子さんと南方先生。お二人には感謝しています。……正直に言えば、僕は、あの雨の夜に死ぬものだと思っていました。剣を振るうこと以外、自分の価値を知りませんでしたから」
沖田さんは、組紐を指先でなぞりながら、静かに、けれど噛みしめるように言いました。
「でも、先生が僕を繋ぎ止めてくれた。桜子さんが、僕の手を握り続けてくれた。……あの日から、僕の見る世界は変わりました。ただ人を斬るためではなく、この美しい景色を、君と一緒に見るために、僕は生きたかったんだと……そう思えるようになったんです」
沖田さんの言葉は、私にとって何よりも尊い「歴史介入」の成果でした。
史実をねじ曲げ、彼を救ったこと。それが間違いではないと、彼の穏やかな微笑みが教えてくれていました。
「……沖田さん。これからも、もっともっと色んな所へ行きましょう。冬になったら雪を……春になったら向島の桜を…」
「ええ。……約束ですよ、桜子さん」
隅田川に落ちた葉が、私たちの足元を通り抜けていきました。
いつか来る激動の足音を、今はまだ遠くに感じながら。
私たちは、この時空の狭間に咲いた、束の間の時間を心に刻んでいました。