第8章 孤高の剣士
第47話:浅草の約束
「…… 桜子さん。やっと、約束が果たせそうです」
新選組の屯所に、秋の爽やかな風が吹き抜け始めたある日のこと。
仁先生のペニシリン治療によって劇的に体調が回復した沖田さんが、羽織と軽やかな着流し姿で私の前に現れました。
彼が死の淵にいた時に交わしたあの約束。「良くなったら、江戸の町を案内する」という、あの時の微かな願いが、今、現実のものになろうとしていました。
「行きましょう、桜子さん。今日は、私が案内役ですからね」
私たちは、仁先生の温かい(そして少し心配そうな)眼差しに見送られ、浅草の活気の中へと繰り出しました。
雷門をくぐり、仲見世の賑わいに目を細める沖田さん。彼は、まるで初めて外の世界を知った子供のように、一つ一つの景色を愛おしそうに見つめていました。
「……すごい人混みですね。私の知っている浅草とは、まるで違う。江戸は、こんなに明るい町だったんだ」
「はい。僕は、この町が大好きなんです」
浅草寺でお参りをし、隅田川のほとりを歩きました。
川面を撫でる風が、沖田さんの少し伸びた髪を揺らします。
私はふと、おじいちゃんから預かっていた包みを取り出し、彼に手渡しました。
「これ、仁先生から。……快気祝いです」
中に入っていたのは、現代の栄養剤を模した仁先生特製の滋養強壮薬と、そして私からの小さな贈り物――江戸で人気の、美しい組紐の守り袋でした。