第8章 孤高の剣士
第46話:土方の訪問
夏の終わりの夕暮れ。千駄ヶ谷の植木屋に、抜き足差し足で忍び寄るような影がありました。
その男が縁側に姿を現した瞬間、庭で薬草を干していた私は、思わず息を呑みました。
「……総司の様子は、どうだ」
低い、剃刀のような鋭い声。
漆黒の着物に身を包み、冷徹な眼差しをこちらに向ける男――新選組副長、土方歳三。
彼は誰にも告げず、独りでこの隠居所を訪れたようでした。
「土方、さん……。沖田さんは、今奥で休んでいます。熱も下がって、少しずつ食事も摂れるようになりました」
私が答えると、土方さんはふん、と鼻を鳴らしました。
「……未来の薬とやらが、死神の鎌を叩き折ったというわけか。大したもんだ」
彼はそのまま土足で上がり込むような勢いで、仁先生が作業をしている部屋へと向かいました。私も慌ててその後を追います。
仁先生は、土方さんの突然の来訪にも動じず、筆を置いて向き合いました。
「……土方殿。沖田殿の快復は、奇跡に近い。ですが、まだ予断は許しません」
「南方先生。あんたの腕には感謝している。……だがな」
土方さんは、腰の刀の鞘を指先で叩きました。
「……俺は、総司が『牙』を抜かれるのを恐れている。あいつは新選組の剣だ。……誰かのために、あるいは何かの約束のために、畳の上で死ぬことを選ぶような男じゃなかったはずだ」