第6章 呉越同舟
第40話:京の別れ、江戸への帰還
京の夜明けは、驚くほど静かだった。
昨夜の喧騒が嘘のように、宿の周りには湿った土の匂いと、どこか遠くで鳴く鳥の声だけが響いている。
「……行きゆうがかえ、桜子」
宿の門前で、龍馬さんが寂しげに、けれど晴れやかな顔で笑っていた。
高杉さんは桂さんに連れられて長州へ。沖田さんは新選組の隊列へと戻っていった。私たちは、再び江戸へと戻る準備を整えていた。
「はい。おじいちゃんと……仁先生と一緒に、江戸で待っている人たちのところへ帰ります」
私は、カバンに忍ばせた空の器をそっと撫でた。
沖田さんが返してくれた、あの温かな器。そして、高杉さんが「美味かった」と言ってくれた粥の味。
歴史の教科書には、沖田総司が宿の包囲を解いたとも、高杉晋作が未来のおなごと将棋を指したとも書かれていない。
けれど、私の記憶の中には、彼らの吐息も、咳の音も、生への執念も、すべてが鮮明に焼き付いている。
「わしゃあもうちくと、おんしと旅をしてみたかったがのぉ」
龍馬さんが珍しく寂しそうな眼差しを向けた。