第6章 呉越同舟
第39話:誠と義の包囲網
「新選組だ! 御用改める!」
宿の外から響く怒号と、幾十もの草履が地面を蹴る音。
部屋の中の空気は一瞬で氷点下まで下がりました。高杉さんは寝床から身を隠し、恭太郎さんは桜子を守るように前に出ます。
「……私の仲間ですね」
沖田さんは、静かに刀を手に取りました。その表情からは、先ほどまでの穏やかな青年としての面影は消え、冷徹な一番隊組長の顔に戻っていました。
「沖田さん、まさか……!」
桜子が駆け寄ろうとしますが、沖田さんはそれを手で制しました。
「大丈夫ですよ、桜子さん。……借りた器は、もう返しましたから」
沖田さんは、そのまま音もなく階下へと降りていきました。
宿の入り口では、抜刀した隊士たちが今にも踏み込もうと殺気立っています。
「そこまでです。動かないでください」
沖田さんの鋭い声が響きました。
「沖田殿! ここに長州の賊・高杉晋作が潜んでいるとの通報が……」
「残念ながら、もう『もぬけの殻』でしたよ。……私の失態です。追跡の指示を誤りました。奴らはすでに鴨川の向こうへ逃げたようです」
「な、なんですと!? しかし、我らの包囲網は……」
「私を疑うのですか?」
沖田さんの瞳が、冷たく隊士を射抜きました。その圧倒的な威圧感に、隊士たちは気圧され、言葉を失います。
「……周辺の捜索に切り替えます。私についてきなさい。……急ぐんですよ」
沖田さんは一度だけ、桜子たちがいる二階の窓を振り返りました。そこには、言葉にできない複雑な想いと、最後のお別れのような微笑みが宿っていました。