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時空の絆

第1章 幕末への導標


(ダメだ……やっぱり私、ここにいちゃいけないんだ。居場所なんてない……)

そう思って俯いた時、優しい、涼やかな声が響いた。

「母上。驚かれるのも無理はございませぬが、この方はひどく怯えていらっしゃいます」

若い女性が、私に一歩近づいた。彼女の瞳には、先程の方のような拒絶はなく、深い慈しみと、どこか新しいものを見つめるような好奇心が宿っていた。

「南方先生のお知り合いなのでしょう? お任せください。私の小袖でよろしければ、すぐにお貸しします。髪も、私が結い直して差し上げましょう」

「咲……しかし……」

「母上。南方先生が連れてこられたのです。信じましょう」

咲さんの力強い言葉に、栄さんは溜息をつき、ようやく視線を和らげた。

「……咲がそう言うのであれば。ですが先生、くれぐれも良からぬ噂が立ちませぬよう」

「ありがとうございます。助かります、栄さん、咲さん」

仁先生がホッとしたように頭を下げる。
咲さんは私の方へ向き直ると、ふわりと微笑んだ。

「さあ、こちらへ。驚かせてしまってごめんなさいね。……私は橘咲と申します。貴女のお名前は?」

「……あ、 桜子、です。南方、 桜子……」

つい、口を突いて出た苗字に、仁先生がビクリと肩を揺らした。
咲さんは少し不思議そうに小首を傾げたが、すぐに優しく私の手を取った。

「 桜子様、とお呼びすれば良いのかしら。不思議なご縁ですね。さあ、まずはその……『故郷』のお洋服を脱いで、着替えましょうか」

咲さんの温かい手に引かれながら、私は廊下を歩き出す。
振り返ると、仁先生が心配そうに、けれどどこか祈るような目で私を見つめていた。

女子高生・南方 桜子。

江戸の女たちの荒波に揉まれながら、彼女の「新生活」が始まった。

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