第6章 呉越同舟
第36話:雨の密会
激しい雨音が、屋根を叩き続けていた。
その音に紛れるように、一階の裏口から微かな衣擦れが聞こえた。
恭太郎さんが瞬時に抜刀し、仁先生が私を背後に庇う。龍馬さんは腰の銃を構え、高杉さんは布団の中で不敵に笑いながら三味線の撥を握りしめた。
張り詰めた空気の中、開かれた戸の隙間から現れたのは、ずぶ濡れになった浅葱色の羽織――ではなく、地味な雨合羽に身を包んだ、あの青年だった。
「……こんばんは。雨の夜にお邪魔して、すみません」
「沖田さん……!」
私は思わず声を上げた。そこに立っていたのは、新選組一番隊組長、沖田総司だった。
「桜子さん。……やっぱり、ここにいたんですね」
沖田さんは、私を見てふわりと微笑んだ。その顔色は以前よりも青白く、呼吸の乱れを隠せていない。
「沖田殿! 何故ここが分かった。……新選組として、踏み込みに来たのか!」
恭太郎さんが、鋭い声で問いただす。
「いいえ。……今日は、ただの『友人』として来ました。桜子さんに、借りていた器を返したくて」
沖田さんは、懐から丁寧に布で包まれた空の器を取り出した。それは、私が江戸でスープを届けた時のものだった。
「……それを返すためだけに、こんな雨の中を?」
仁先生が呆然と呟く。
「ええ。それと…… 桜子さんの顔を見れば、なんだか少し、楽になれる気がして」
沖田さんは再び激しく咳き込んだ。その音を聞いた瞬間、布団の中にいた高杉さんが、ガバッと起き上がった。
「……おい。そこの優男」