第6章 呉越同舟
第34話:ニアミスと予感
夜の静寂を切り裂く規則正しい足音が宿の前で止まった
。
部屋の中の空気が一変する。龍馬さんは音もなく腰のピストルに手をかけ、恭太郎さんは刀の柄を握りしめた。高杉さんは、面白そうにニヤリと笑い、三味線の撥(ばち)を構える。
「……誰か、いますね」
階下から聞こえてきたのは、あの聞き慣れた、鈴のように澄んだ声だった。
沖田総司。
新選組の巡察隊が、まさに今、この宿の門前に立っているのだ。
(……沖田さん。どうして、ここに……)
私は息を殺した。壁一枚隔てた向こう側に、江戸で約束を交わした彼がいる。
沖田さんは、ふと足を止め、宿の二階を見上げたようだった。
「……不思議だな。懐かしい匂いがした気がしたんだけど。……気のせいか」
「……沖田先生、どうなさいました?」
隊士の声に、彼は「なんでもないよ」と軽く答え、再び歩き出した。
遠ざかっていく足音。私は、止まっていた呼吸をようやく吐き出した。
「……危ないところだったぜよ」
龍馬さんが安堵の溜息をつく。だが、仁先生の表情は、別の「危機」を見つめていた。
「桜子さん。……始めましょう」
仁先生は、高杉さんの胸の音を聴診器(江戸で作った木製のものだ)で慎重に聞き、それから私の持ってきた救急セットの中身を広げた。