第5章 自立
第31話:偉人の見解と軍鶏鍋
グツグツと煮え立つ軍鶏鍋を囲み、三人の影が障子に映る。
高杉さんは、さっきまでの将棋の負けを忘れたかのように、美味そうに肉を口に運んでいた。
「……で、どうなんだ龍馬。わざわざこんな未来の小娘を、潜伏中の俺の元に連れてきたのには、理由があるんだろ」
箸を止め、高杉さんが鋭い目で龍馬さんを射抜いた。
龍馬さんは徳利を傾けながら、ニカッと笑って私の方を見た。
「……バレたかえ。実はのう、桜子は今、大事な人と喧嘩しちゅうがじゃ。仲直りの仕方を、長州一の策士に教えてやってしとおせと思うてな」
私は思わず俯いた。
おじいちゃん……仁先生との、あの雨の日のような冷たい決別。胸の奥がチリリと痛む。
「はははははは! 傑作だ!」
高杉さんは突然、腹を抱えて笑い出した。あまりに激しく笑うものだから、また咳き込むのではないかとハラハラするほどだった。
「龍馬、お前は正気か! 仲間と喧嘩し、藩を飛び出し、指名手配を受けて京の隅っこに隠れているこの俺に、仲直りの方法を聞くか! 俺が知っているのは、仲違いの仕方と、縁の切り方だけだぞ!」
「暢夫さん、そりゃあ身も蓋もないぜよ」
龍馬さんは苦笑いしたが、高杉さんは笑い飛ばした後、ふっと真面目な顔になって私を見つめた。