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時空の絆

第5章 自立


三十分後。

龍馬さんが「軍鶏(しゃも)の鍋を持ってきたぜよ!」と威勢よく戻ってきた時、部屋の空気は、戦場さながらの熱気に包まれていた。

「……そこだ! 飛車で王手!」

「ふふふ。甘いですね、高杉さん。その銀、浮いてますよ? ほら、こうして……」

「ぬおっ!? な、何だその得体の知れぬ囲いは!」

「これ、現代……じゃなかった、私の田舎で流行ってる『穴熊』っていうんです。絶対崩れませんよ!」

二人は盤上に身を乗り出し、髪を振り乱して睨み合っていた。

高杉さんは、負けず嫌いにもほどがある。私が一歩指すたびに「ほう」「むむむ」と唸り、時には「待った!」と手を引っ込めようとする始末だ。

「……おんしゃらあ、何をしゆうがぜ」

龍馬さんが呆れたように立ち尽くしている。

「龍馬! 邪魔をするな! 今、この未来の小娘に、長州男児の意地を見せているところだ!」

「高杉さん、さっきから『待った』三回目ですよ! 全然『意地』じゃないです!」

さっきまでの病の影はどこへやら、高杉さんは顔を真っ赤にして駒を握りしめている。

私は、笑いながら思った。

この人も、沖田さんも、教科書の中では「歴史を動かした駒」の一つかもしれない。でも、こうして目の前で悔しがったり、必死になったりする姿は、ただの、ちょっと強情な、生身の人間なんだ。

「……ふん。負けた、負けたよ! 未来の将棋は、おなごまでこんなに可愛げがないのか」

高杉さんは投げ出すように駒を置くと、ドカッと大の字に寝転んだ。
その顔には、どこか憑き物が落ちたような、清々しい笑みが浮かんでいた。

「…… 桜子と言ったか。お前の指し筋は、迷いがないな。……面白きなき世を面白くするのは、案外、お前のような余計なことを考えぬ者かもしれん」

龍馬さんが持ってきた軍鶏鍋の匂いが、部屋中に広がる。
京の夜、志士の病をひととき忘れさせるような、騒がしくて温かい時間が流れていた。

だが、その頃。
仁先生と恭太郎さんは、すでに京の入り口、伏見の宿に辿り着いていた。
桜子を追いかけてきた仁先生の瞳には、かつてないほどの鋭い光が宿っていた。

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