第5章 自立
激しい、叩きつけるような音。
そこには、仁先生が守ろうとしている「歴史の正しさ」なんて微塵もなかった。ただ、「今、この瞬間を変えたい」という、爆発しそうな生への執念だけが渦巻いていた。
(……みんな、死ぬのが分かっていて、走ってるんだ)
新選組も、龍馬さんも、そしてこの高杉さんも。
私は、おじいちゃんの庇護の下で「正しい答え」だけを求めていた。
けれど、この京の空気、この男たちの吐息は、私に突きつけてくる。
「正解」なんてどこにもない。ただ、自分がどう生きたいか、それだけがすべてなのだと。
「桜子。先生のところへ帰りたくなったかえ?」
龍馬さんの問いに、私はゆっくりと首を横に振った。
「……いえ。私、もう少し、この熱の中にいたいです。おじいちゃんが、何に抗おうとしていたのか……それを、ちゃんとこの目で見たいから」
京の夜風が、私の頬を冷たく、けれど心地よく撫でていった。
歴史の教科書が、音を立てて崩れ去り、本当の幕末が私の前で幕を開けた。